本論は、主にシンデレラ物語に秘められた神話的思考が我々の生活や思想や創造活動にどのように影響してきたかを考察するものである。本論の目的を、声と音におけるシンデレラ物語の表象としてディズニー・アニメーションを取り上げる、神話は我々の身近なところで作用していることを示す、表象はあらゆる側面で影響し合うことを明らかにする、という三点に設定した。
シンデレラ物語は世界中で親しまれている物語のひとつである。そして、その中でも神話の特徴を保存しながら語られてきた稀有な例のひとつである。800以上もの類話が存在し、絵画、演劇、映像、絵本など様々に表されてきた。最古の文献は9世紀の中国まで遡る。19世紀に民俗学者らによってシンデレラ物語をはじめとする民話研究が盛んに行われるようになると、社会学や心理学においても研究が進み、各分野・各研究者の視点によって論じられている。
シンデレラ物語は口承民話として伝えられていた。口承民話は特定の形を持たないことで語り手によって流動性を持ち、地域や時代ごとに少しずつ変化してきた。しかし、声が記録されることによって純粋な口承民話というのは断たれてしまった。一方で、文学が誕生し、演劇が発展した。宗教儀式的目的、創作表現的目的、教育的目的など様々目的に応じながら物語は表出の場を求めて変化し続けている。
シンデレラ物語は、絵画や舞台でもモチーフとして用いられるようになり、さまざまな表象として現れるが、中でもディズニー・アニメーションによって、おとぎ話「シンデレラ」はその存在を世界に示すこととなった。本論では、ディズニー・アニメーションにおける画面の中の動きと音と声のみの世界を新たな「声」の文化の表象ととらえる。ディズニーに代表される娯楽文化によって文化の中心がヨーロッパからアメリカに移行していった背景をふまえながら、ディズニー・アニメーションによるシンデレラ物語がアメリカでいかに神話化したかを示し、シンデレラ物語の神話性が現代の神話を創ることを明らかにしようと試みた。
学生生活の中で常々感じていたことは、芸術は領域を取り払い、あらゆるところでつながっているということである。その感覚を明確に示したい、つなげる役割を自ら担いたい、という想いから本論を執筆するに至った。シンデレラ物語研究の新たな視点となり、表象はあらゆる側面でつながりを持つことを感じる一助となれば幸いである。


































山下 彩華