ガッラ・プラチディア廟は、サンタ・クローチェ教会付属の霊廟として古代ローマ帝国末期(425-450年頃)、西ローマ帝国の皇后ガッラ・プラチディアの寄進により建立されたと言われている。創建時、霊廟の位置するラヴェンナ(イタリア)という都市は、西ローマ帝国の首都として、また軍港・貿易港を備え東方世界への交流拠点として機能していた。さらに寄進者とされるガッラ・プラチディアは東西両地域に通ずる人物である。このことを背景として成立した本霊廟は、外観、内部装飾双方に、古典的要素・宗教的要素・異文化的要素など様々な要素の交錯を見ることの出来る非常に興味深い建築といえる。
本論文では、歴史・文化・宗教等多角的視点によって霊廟全体を捉えながら、建築内部に施されたモザイク装飾について、図像学的視点からそこに表現される意味を考察するとともに、本作品に見るガラス素材が生み出す効果を、当時のキリスト教の教義・思想を踏まえて明らかにしようと試みた。
モザイクとは、ガラスや石の小片を組み合わせて表現する技法である。本作品ではその素材としてガラスが多用されており、小さな窓から差し込む光を、反射というガラスの性質を利用することで堂内全体に増幅させ、天上世界を彷彿させる幻想的な空間を作り出している。霊廟全体に散りばめられる救済の意味を持つ図像の中で、特に意図的な集光と視線の誘導が見られる天井の天空表現に注目すると、黙示録との深いつながりに加え、死者が天上世界(天国)へ向かうことを祈願する当時の権力者の思想観を見出すことが出来る。ガラスによって生み出された光と鮮やかな色彩が、この天空表現をはじめとする本作品の図像を印象的なものとしている。聖書の記述をもとに意味付けられる図像と同様に、ガラスの色彩・明度・配置の選択は本霊廟の意味や機能を知らせ、且つ見るものにキリスト教の勢力を顕示するための重要な役割を担っていると考えられる。
古澤 かおり