杉本博司は世界的な評価をされる日本人アーティストのひとりである。
1974年からニューヨークを拠点にして活動を開始した。1995年頃から海外において高い評価をされるようになった。ようやく日本国内での評価が確立したのは2005年頃からである。2008年に杉本作品はオークションで1億円を超える値がつき、世界的な評価をされる日本人アーティストのひとりとして認知されるようになった。
杉本作品について、既に数多くの評論が行われている。評論家たちの言葉や、杉本自身が語る言葉は数多い。これらの言葉に注目して考察を重ねると、そこには「作品」と「作品を語る言葉」に相互に補完する作用と効果が働いているのではないかと考えるに至った。
本論は、杉本が語る言葉について考察を行う初めての論文である。
はじめに評論家たちや杉本本人の言葉にはどのようなものがあるのか確認して行く。そこから、杉本が海外で先に高い評価をされて、その後日本国内で評価されていく過程の言葉や理由についての考察を行う。
杉本の評価を「写真家」から「現代美術作家」へと変えることになった作品については、制作の過程と杉本の言葉を再構築しながら検証を行う。
杉本の言葉に影響を与え、作品や言葉を形成したもの思想や源流となったものを探り、そのうえで杉本がかたちにしようとしている世界観を推論していく。
これを「日本的霊性美術史」と呼ぶことにした。
中垣 淳