名倉 聡美 油絵学科[油絵専攻]
すべての皆様に、自分と皆様の境界がなくなると、美しい生きもの。 自分と皆様を分かつと、面白い生きものになります。 どちらもずっと、衣食住、生き続けて参りました。 これからは、人や感情、ものがならされ、平らかに成っていくと感じております。平成。 怒らないで、静かにしましょう。
担当教員:袴田 京太朗
主にパフォーマティブな立体作品を制作していた名倉は、4年の秋になって突然絵を描き始めた。それも尋常ではない勢いで。次々に出来上がっていく絵にぐるりと囲まれた中でひたすら描き続ける彼女の姿は、さながら巣の中心で本能のままに卵を産み続ける女王蜂のようだった。巣の中の名倉同様、その作品群は誰の目にも一種のトランス状態を思わせる。おびただしいタッチが得体の知れないイメージをつくり出す様は、新しい芽吹きとおぞましい腐敗が際限なく繰り返されているかのようで、観る者をたじろがせる。しかし名倉は何か情念のようなものをこめて絵を描いているのでは決してない。特異な思考によるものとはいえ、彼女はむしろ明確な意志を持って筆触やイメージについて考え、その執拗な作業の集積が結果的にトランス状態を引き起こしてしまっているに過ぎない。
名倉の描く絵は、がんじがらめの制度や形式の中にある「絵画」からは明らかに逸脱している。だが目の前で起こっている、このむき出しのイメージと絵具の洪水を、一体なんと呼んだらいいだろう。いや、絵とは本来こういうものではなかったのか?