武蔵野美術大学 造形学部卒業制作 大学院修了制作 優秀作品展

展覧会について

 

山脇 紘資 油絵学科[油絵専攻]

 

ジェンダーのタブーを絵画的にビジュアル化させる 人間社会において昔から存在している獣姦、レイプ、近親相姦など、世間一般の価値観からいえば拒絶される傾向が強い行為を絵画という媒体を使いアートとしてビジュアル化させたかった。 展示では主に獣姦に焦点を当てた。 今回いくつもモチーフとして使われている動物という存在は人間に対するメタファーとして機能している。 つまり人間のある側面をより具体的なイメージで呼び覚ますモチーフとして最適だと考えたのだ。 何よりその動物が人間のメタファーとして機能している事に対して、獣姦という直接的行為が実に対比的で哀れで皮肉的であり面白いと思った。 また今回の展示に焦点を当てていくと、犬のそりたった耳と人の中指はペニスの象徴であり、狼は男性の象徴。 シャツに刺繍されたインカ人は歴史的に獣姦を行ってきた種族であり、犬人間や髭の生えた子供は、ギリシャ神話に登場する獣と人との間に生まれたミノタウロスのオマージュである。 猫の肖像画は今回の展示において動物が人間のメタファーとして機能している事の象徴だ。 最後に表現する上で重きを置いた事は獣姦、レイプ等のイメージを絵画上で直接的に表現するのではなく屈折させる事だ。 そのため絵画上では直接的な暴力性は排除され、そこには色鮮やかなイメージや抽象的なイメージ等が広がる。 しかし根底にあるテーマと表現したビジュアルから生まれる”ズレ”こそ今回のテーマの最大の見せ場であり、第三者に問いかける要因になりうるものであると考えている。 そこに”世間では排除されている価値観をアートとして転換して表現したかった”という私の動機や想いが込められている。

担当教員:長沢 秀之
今までの山脇くんの絵画は、写真をもとにしたその像の写実的再現が主であった。しかし最近の展開では、それに加えて絵画としてのおもしろさや遊びも同時にやれるようになり、ひとつの流れの中に不意なものを放り込み異和感をもちながら絵の豊かさをつくれるようになってきたように思う。あらかじめ決まったものだけではなく、その画面で起こる出来事を受け止めながら絵をつくっているのがいい。

Photo: Akitaba Hamasaki, Tomokazu Nakamura, Yasuo Saji