ドナルド・ジャッド:その〈脱中心性〉をめぐって
杉原 環樹 造形理論・美術史コース
論文
アメリカ人作家ドナルド・ジャッド(1928-1994)の作品は、一見きわめて単純です。しかし彼にとってその作品は、「明晰」であるがゆえに「複雑」で、「絵画」でも「彫刻」でもない新たな表現の領域を開拓しようとするものであり、また当時のアメリカの「リアリティ」を体現するものとしても考えられていました。本論は、彼の作品が生み出す視覚経験や、その制作の背景を検証することで、ジャッドの提起した問題をあらためて考えようとするものです。
担当教員:
杉原の論文は、通常ミニマリズムを代表する作家として論じられているドナルド・ジャッドの作品の、一般的なミニマリズム解釈では捉えられない側面を浮き彫りにする非常に意欲的なものだった。とりわけ杉原が着目したのは、ジャッドの作品における「脱中心性」という問題で、これが「不安定な視覚」と「表面の全焦点性」という観点から詳細かつ精緻に考察されている。論文のなかで展開されている作品のフォーマルな分析は巧みで、またジャッドの様々な文章を丹念に読み込み、充実した作品解釈へと結実している。これまでにない視点からジャッドを論じた論文として高く評価できるものとなっている。