論文
紙、ファイル製本
297×210
勝山竹細工は1979年に、当時の通商産業省より認定された、岡山県真庭郡勝山町(現・岡山県真庭市)に伝わる伝統的工芸品である。
「工芸品」に分類されてはいるが、勝山竹細工の素性は生粋の農具・民具であり、実用本位のガッチリとした造形美は民芸そのもの。加えて、個人事業主である職人たちが共同作業所に集まって終日作業し、互いに技を磨きあうという、全国でも稀な生産スタイルが評価されての認定獲得であった。当時、50人ほどいた職人であるが、高齢化が進み、また、後継者を確保できなかったため、現役職人はただ一人のみ。まさに絶滅危惧的状態にある。
聞き取り調査をしていくうちに、伝統的工芸品の認定は、衰退しつつある産地を復興させ、同時に、後継者育成に弾みをつけるための取り組みであったことが見えてくる。職人たちも、慣れないながら販路の開拓に取り組み、同時に、市場に受け入れられる商品開発を目指してデザイン導入を行ったが、いずれも期待したほどの成果は得られなかった。後継者の確保についても、経済的に魅力ある仕事ではなかったので、結局、一人も育たなかった。
伝統的工芸品の認定からわずか18年で組合解散に至った経緯を追うことで、現在、全国の伝統工芸、手仕事が抱える共通した問題点と、そこからの再起の糸口を探ることを目的に、現役の職人、元竹工組合長、元町役場担当者へ取材した。
もくじ
序論
1 勝山竹細工の問題
2 本論の目的と課題
3 勝山竹細工についての先行研究
第一章 勝山竹細工とは
1 勝山竹細工 製品特徴と歴史
2 倉敷民芸館、外村吉之介氏の評価
3 最後の伝承職人 川元重男氏
第二章 伝統的工芸品認定に至るまで
1 全国に点在する竹細工産地
2 なぜ、勝山竹細工が認定されたのか
3 伝統的工芸品認定へのプロセス
第三章 伝統的工芸品認証取得から組合解散まで
1 5カ年の振興計画書
2 全国での実演販売
3 後継者確保を断念
第四章 熟達の職人たちが挑んだ4つの壁
1 伝統と暮らし文化の壁
2 竹素材ゆえの壁
3 魅力ある職業への壁
4 デザイン開発、総合プロデュースの壁
第五章 勝山竹細工の歩みから見えること
1 伝統産業が息を吹き返すために必要なもの。総合プロデュース力。
2 民芸・吉田璋也に見る取り組み
3 工業デザイナー・秋岡芳夫と木工製品の「しつらえ」の取り組み
担当教員:金子 伸二
伝統的工芸品の指定を受けながら、今では従事者が1人だけとなった岡山県の竹工芸について、文献調査と関係者への聞き取りによって、指定に至る経緯とその後の展開、今日に至る衰微の過程を跡づけた研究。技術的特徴と産業としての成り立ち、商品性の変化が詳細に記述され、継承発展に向けた生産者と地域の取り組み、それが実現しなかった理由が丁寧に語られている。工芸振興は生産地の努力だけでは達成されないことが理解できる。