武蔵野美術大学 造形学部卒業制作 大学院修了制作 優秀作品展

北極星を動かす方法をめぐって ーいくつかのタスクー

灰原 千晶 油絵学科[油絵専攻]

インスタレーション
ミクストメディア、木片、油粘土、
布、自転車、プロジェクター、モニター
3390×5160×8790

どうにかしたいけどどうにもできないことがあった。
ただただどうにかしたかった。でも同時に簡単にどうにかなってはいけない気もしたし、どうにかしたいかも判然としない。
制作を進めていくうちにそのズレは広がり、まずズレに向き合うプロセスが必要だった。今回はそのプロセスをこぐま座の形と、その星座に含まれる北極星を象徴として用いるとこで作品にしました。

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担当教員:袴田 京太朗
かつて灰原がつくった作品「渡れるかも知れない橋」は、本学と隣接しながら、ほとんど交流のなかった朝鮮大学校との間に架空の橋をかけるプロセスを作品化したものであった。 その後はからずも、実際に朝鮮大美術科との交流が始まるという幸福な展開を見たが、それでもこの作品は、架空だからこそ特異な輝きを持ち得たのだと思う。 その灰原が卒制に選んだのは、天空の中心である北極星を動かす、という荒唐無稽なテーマである。彼女が求めたのは、以前の「橋」と同じように結果ではなくそのプロセスであり、架空なものへの想像力の強度であろう。廃材などによる雑多でむき出しの作品らしきものら。それらとの関わりの中で灰原は「動かないはずのもの」と、未知の言語で交信しようとする。展示室の奥には、動かない事実の象徴として灰原自身の家族の肖像が掲げられ、その横に静かに流れるのは、かつて彼女が家族と住んだ家々を自転車で巡った、どこか切ない映像である。彼女のこうした愚直な呼びかけに、私たちはくすくす笑いの中で、ほとんど意識すらもしてこなかった大量の「先入観」や「常識」が、少しずつ溶け出しているのを知るのである。