平面
ロクタ紙、顔料、透明メディウム、木版
2800×4300
今から16年ほど前、当時8才だった僕は不思議な夢をみて、起きてすぐに紙に描きなぐった。その夢には当時の風景や体験が詰まっている。ふるさとの幻影であり、帰ることの出来ない幼少期の記憶である。存在しない夢の洞窟にもう一度出会うための空間を作りたいと思った。そしてその世界に自分以外の人も連れて行きたい。
最終的に閉じ込められた空間(夢のイメージ)を外の世界へ解放するため、薄い紙に摺りとり1枚の版画が生まれた。それは暗くて深い地面の中から白い鳥のようなものを掘り出し、瞬時に空へ飛び立たせていくような不思議な体験だった。
担当教員:高浜 利也
子供の頃、夢の中で出会った風景。記憶の襞に染み込んだその原初的イメージを、ヒマラヤ杉の丸太の芯をくり貫くという気の遠くなるような作業を経て、木肌に刻み込みこんだ渾身の作。靴を脱いでくぐり抜け、“体験することが出来る”立体作品は、実は木版の版木(はんぎ)としても機能している。対をなす、紙に刷り取られた図像こそが、いわゆる版画作品なのだ。こうしたレトリックさえも、作者が紡ぐ物語に巧みに取り込まれ、言葉にできないような繊細なノスタルジーを纏ったその世界観が、切ないほど心に響いてくる。