武蔵野美術大学 造形学部卒業制作 大学院修了制作 優秀作品展

苦悩の壺

大川 夏来 映像学科

映画
43min 34sec

太宰治作『晩年』より「葉」(一部抜粋)を原作とした実写映画。死のうと思っていた。ことしの正月、よそから着物を一反もらった。お年玉としてである。着物の布地は麻であった。鼠色のこまかい縞目が織りこめられていた。これは夏に着る着物であろう。夏まで生きていようと思った。この短い文章に太宰治の史実を織り交ぜて描いた映像詩。

担当教員:板屋 緑

太宰治の数行に導かれて、修治(太宰の実名)の最後の日日を描いた作品。実際の太宰治の人となりや、実際の出来事はよく知られているところであるが、その日日の永遠とも思われる無時間的な時間感覚と、幸せを求めるのと同様な、死に対する自然な心情はフィクションであり、大川が一番描きたいところであろう。そのための、シナリオの構成は綿密であり、演出は、演技に価値付けられるだけでなく、カメラによって造形的にも価値付けられている。カット割りやサイズ、カメラワークの確かさに加えて、特に、シークエンスごとに変化する映像のアスペクト比の演出は見事である。