論文
紙、くるみ製本
210×148
本研究は、画家アール・ローランの著書『セザンヌの構図』(一九四三)を主題として扱う。私がこの書籍に出会ったのは美術系の高校に入学して絵画を学び始めた頃だった。そこでは一方で、石膏デッサン、明暗法、遠近法、解剖学を中心とした慣習的な技術体系が堅持されながらも、他方ではそれと矛盾するような放任主義が採用されていた。そんな状況もあって、独学で美術を学ぶ必要性を感じ始めた頃にこの書籍と出会うことになった。
この書籍は、レオナルド・ダ・ヴィンチの絵画論に由来するアカデミックな美術教育とは異なる流れを示唆している。当時の自分にとっての成果は直接の制作の中でのみ実現されるのかと思っていたが、後々それは作品の鑑賞や外界の知覚過程に至るレベルで影響を残していたことに気が付くことになる。一言で述べるならばローランは認識の話をしていたとも言える。さらに美術から主観的な言説を払拭しようとしているように見えた。彼が描いたダイアグラムはその象徴である。この本の主張はシンプルで、美術を学ぶ若者に向けて開かれており、それそのものが一個の作品としても見られうるようなダイアグラムを有していた。
本研究は日本語では類を見ない概観的なアール・ローラン研究として、今後の研究の発展に少しでも寄与するものとなれば幸いだ。
目次
第1章
第1節 研究の概要
第2節 理念と先行研究
第3節 『セザンヌの構図』概要
第2章
第1節 リキテンスタインとの衝突
第2節 線と色彩
第3節 色彩を失ってもなお
第3章
第1節 モノクロ彫刻
第2節 芸術の起源へ
第3節 ダイアグラム
担当教員:杉浦 幸子
1905年アメリカ生まれの、画家であり教育者アール•ローランが、ダイアグラム分析でセザンヌの作品を読み解いた『セザンヌの構図』。ダ•ヴィンチまで遡る絵画論を参照しつつ、絵画制作の教本であり、かつ優れたセザンヌ論でもあるこの本を書いたローランの思考と実践を明らかにすることに挑戦した意欲作である。ローランのダイアグラム分析の原田による再分析は、絵を描く人、見る人、そして教える人に、豊かな可能性を提供する。